自慢の息子

俺の息子、草子(そうし)は今年高校受験だというのにのーんびり、だらりーんと中学最後の夏休みを過ごすスローな男。

『 お母さん、怒っからさー、少し勉強したら 』と、スローのベテランである俺は言う。

息子は、おもむろにニンテンドーDSを手に取ると無言のまま「英語漬け」を始めた。

『ビューティフル 。サンキュー。カントリー‥』マイケル富岡みたいなイカしたEinglishの音声に合わせて、息子はDSのペンをシャーシャー走らせる。

『 オシャレだねー。最近の若者の勉強法は 』俺。
『 ‥ 』息子。
『 スクール 』とってもマイケル富岡なDS。
『 スクール‥』またマイケル。

『 おい。ところで、その英語、中ーレベルじゃね?おまえ、今年、受験だろ?』俺。
『 ‥ 』DSをにらむ息子。

『 スクール‥スクール‥スクール‥スクーーール!』バカみたいにスクールを連呼する、DSの愉快なマイケル。

『 ‥ 』息子。金縛りになったのか‥彼のペンは見事に止まっている。
『 ‥ 』俺。
『 スクール 』機械的なマイケル。

学校、学校、うるせーんだよ!(←マイケルに激怒する俺)

そんな勉強が苦手な草くんだが、彼は俺の自慢の息子なのだ。
小さい頃から格闘技を始め、去年と今年キックボクシングの全国大会で2年連続で優勝している。
タイのバンコクに武者修行に行ったり、元K-1王者の小比類巻の道場に招かれて稽古したりと、将来、有望な選手なわけで、まー父親としては自慢したいでしょ、普通。
それに、すげーイイ奴だから、女の子にモテるみたい(デート代はたっぷりもたせなきゃアカンね)

だけどねぇ‥。

スクールという超カンタン英語で静かに終了したDSを横目に、ソファに寝そべっている息子。

業を煮やした俺はようやく口を開く。

『 あのさー、具志堅用高ってはじめっから馬鹿なんじゃねーからな。殴られすぎて馬鹿になっちゃったの。お前は馬鹿じゃねーから受験なんて楽勝なんだよ 』

『 え?そうなの?‥ 』と、小指で耳の穴をほじりながら反応するマイペースな息子。
そして、『 マジかー、俺、走ってくるわー。やっぱ、ディフェンスって大事だゼ 』とかなんとかいって、彼はハミングしながら家を飛び出した。

『 ‥ 』文字通り無力な父親。

たまには酸っぱいセリフも言ってみるもんだなと一瞬、悦に浸った俺がアホだった。
勉強しないとまたお母さんに怒られちゃうよ、という父親の呟きはサクっと宙に消えた。

あきらめた俺は缶ビールを手にとって、ベランダに出た。

青い空はどこまでも続いている。

うおー空はデカい!

あー!ビールがうんまい!

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